起きれない研究者と眠れないエンジニアが当事者研究的にシビックテックアプローチで睡眠ハックを目指す
Code for Japanの武貞(たけさだ)です。この記事はアドベントカレンダーの12日目です。(個人発信は諸般の事情により、はてブへ移行予定だったのですが、noteとはてブの両方に掲載しています。)
睡眠領域のオープンサイエンスプロジェクト
もともと2019年ごろから社会人のまま大学院に入っていて、研究で子どもの脳機能と睡眠について睡眠測定をしてもらいながら研究を進めていたこともあり、また個人的に眠りすぎる(寝つきはいいけど、朝起きれない)傾向もあったため、専門家の方々に研究についてフィードバックをもらったりしながらSlackで交流していて、「何か情報を外に出しながら、アウトリーチができるようなチャレンジをしよう」という話から、「シビックテック井戸端キャスト」の話をみなさん共有し、流れでポッドキャストをすることになりました。
専門家と当事者が話すポッドキャスト
国立精神・神経医療研究センター(NCNP)と睡眠や脳機能、メンタルヘルスにまつわる研究をしている有志の先生方とのコラボレーションで、2022年の3月18日(睡眠の日)とその前後の睡眠週間を皮切りに、毎週水曜日配信のポッドキャストを始めました。
シビックテック的なアプローチ、オープンサイエンス・シチズンサイエンス的な取り組みにしていきたいという気持ちもあったので、ポッドキャストは
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(睡眠・脳機能・メンタルヘルスなどの)専門家・眠りに関する困りごとがある当事者・その間で話を進める進行役の3名体制
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1回は10〜15分の通勤中や移動中、散歩中、料理中、あるいは眠れない夜のベットに入る時間帯にサクッと聞ける短さ
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企画も編集もパーソナリティも極力外部に頼らず試行錯誤しながら自分達でやってみる
という、やんわりな枠組みで回しています。NCNPの若手チームが日程調整や音頭をとってくださっているので、私は主に企画・テーマなどを考える担当ととして、企画会議や収録前の打ち合わせに参加しています。
ポッドキャストから始まったプロトタイピング
ポッドキャストでは「眠るってどういうこと?」「眠れないときはどうしたらいいの?」「アルコールを飲んで寝るのはダメ?」などの素朴な疑問を専門家になげたり、実際に眠れないときに当事者がどうやって過ごしているかなどをざっくばらんに話しているのですが、割と初期の頃に「睡眠の特性を自分で知るにはまず睡眠記録を取ってみましょう。」という話になったので、睡眠記録シートを使ってみるという実験がありました。
このNCNP版のシートは彩りも鮮やかで記入しやすくなるようにとメモリなどに工夫がされているのですが、一般的によく使われる睡眠記録シートはものすごくレガシーなUIをしていて、記入しにくかったり読み取りにくかったりします。
この実験を通して、睡眠を知りたいと思っていても毎日コツコツ記録をつけていくのが意外と大変なことを体感し、トラッキングデバイスの便利さを感じると同時に、「体温計のログや運動記録がどんどん便利なアプリになっている世の中なんだから、手書きしかできない今の睡眠記録もアプリにしちゃえばいいのでは!」と思うようになり、エンジニア・デザイナーの仲間たちと共に始めたのが「#gussuri」(睡眠記録シートDXプロジェクト)です。
紙からアプリへ。(DXが想像以上に難しい。)
当初は「パパッとできるだろう」と思っていたのですが、実際にアプリ化しようと紙シートのデジタル化を進めてみると躓きポイントが沢山あり、「複雑だからあの書きにくさ・読みにくさだったのか」と納得する羽目になりました。
そもそも、「寝る」「眠る」というと1つの動作のように感じてしまうのですが、人間が寝る〜起きるまでの行程には「寝る支度をする」「布団に入る」「眠りにつく」「中途覚醒(途中で起きる)」「目が覚める」「布団からでる」など複数の動きがあります。また、これらがスムーズに切り替えられる人もいますが、「中途覚醒(途中で起きる」をした後に眠りに戻ることが難しくて時間がかかってしまう人や「目覚める」から「布団から出る」までの間に布団の中でダラダラしてしまう人、目覚まし時計を止めて再び眠りについてしまう人などケースも沢山分岐していってしまいます。
また、「眠れた」「眠れなかった」などの主観的な本人の感覚に頼る指標も「眠れた」のそもそもの度合い統一されているわけではないので、本人の性格や捉え方(完璧主義なのか曖昧なのかなど)によっても、言葉の翻訳の仕方などによっても変わってしまうのではないかという議論があり、最近の論文などからヒントをもらい、絵文字と言葉を併記するような方法に着地しました。
ユーザー視点に立ち返ってみて「これ使いたいかな…」
入力方法や評価方法を一通り整理したところで、大まかなデザインとデータベースの設計は済んだのですが、ここまでが「データを見たい研究者」「データを収集したいシステム側」視点で進めていたため、実際のユーザーさんに使ってもらう前段階で「これ、使ってもらえる?」「これ、使い続けてもらえる?」という疑問が湧いてきたこともあり
また、Code for Japan サミットのセッションを収録したころくらいまでは実験協力者の募集方法も目処がついていたのですが、研究・開発費用として想定していた資金源を得られなかったため、予算的にも開発の方向性的にも舵を切ることができなくなってしまい、私がプロジェクトを停滞させてしまいました。
そうだ、会津若松、行こう。
どうしよっかな。開発資金もユーザーへのリーチもこのままじゃダメだな。と思っていたときに毎年会津若松で秋に開催されているウェルビーイングハッカソンがあることを紹介いただき、仲間に声をかけ、起きれない研究者と眠れないエンジニアのチームで行ってみよう。ということになりました。
メンターが豪華なこともさることながら、私たちのチームに加入してくれた矢野さんという方が、めちゃくちゃ素敵な方で、チームを2日間通してずっと盛り上げてくれていました。
私が企画案を唸りながら考えていても、アイデアを拾って「いいね!」と賛同してくれるし、エンジニアが開発が思うように進まなくて端末と格闘したりデザインで悩んだりしていても「すごいね!」「これいいね!」「これかわいい!」とできている部分を肯定してくれるし、最終発表のプレゼンのためにデフォルメしたユーザーストーリーの説明動画を撮るときもノリノリでユーザー役を買って出てくれました。(神)
ハッカソン@会津 #WBH2022 で #バク睡らぢお メンバーと就寝・入眠の検知に @WithingsJP の睡眠パッドを使いつつ、眠れない夜を緩やかに共有し合う「スイミーん(仮)」 をプロトタイプ開発しました。記録はガジェットで取りつつユーザのインターフェイスは優しくする作戦です。続きもやっていく所存💪 pic.twitter.com/vpO4U8eqhY
— まみさだ | 睡眠+遠隔支援🧠💤 (@mamisada) November 28, 2022
眠れない人目線でのプロトタイプ再構築
この2日間を通して、「眠れない」という思いを抱えたまま夜を過ごす人に寄り添う形の睡眠記録アプリをプロトタイプしました。これまで自分達が作ってきたものを一回無視してやりなおすことは勇気がいりますし、これまでの積み上げてきたものを否定するようで心苦しい部分もありましたが、場所を変えて、メンバー構成も変えて、仕切り直して2日間取り組んでみることで、スタート地点にあった「眠れない人の眠れない夜を支えたい」「健康なリズムや暮らしやすさに貢献したい」という思いを再認識するとともに、本当に困っているときに本人が欲しいものがなんなのかを捉え直すきっかけになりました。これまで作ってきたプロトタイプと、今回できたプロトタイプを元に、改めて当事者と支援者と研究者それぞれにとって「使いやすい」支援ツールをつくることにチャレンジしなおしたいと考えています。
また、会津のハッカソン以外にも、学会のポスター発表やシンポジウムなど、様々な場面で専門家の皆さんやポッドキャストを聞いている方々からの声をいただくことも参考になっています。
応援してくれる人がいることが応援になる
シビックテック取り組みは、災害などの緊急時は1日でも早く!なんとしてでも!とみんなの力が集結し、ものすごいスピードで開発されていきますが、平常時の「あったらいいな」「ここ変えたいな」というプロジェクトの大半は、期限があるわけでもなければ、十分な開発資金や運営体制が整えられている状態から始まるわけではないので、プロジェクトやサービスが持続可能な形で進み続けるように育て上げるのはなかなか難しいことだったりします。
一方で、前川さんがキャプテンを務めるCode for SAKEのSakepediaの取り組みのように、コツコツ何年も積み重ねてきて、ちょっとずつ形になっていく、出来上がっていくプロジェクトもあったりするので、コントリビュータ自身がそのプロジェクトのファンになって応援したり参加したりすることや、周りの人たちの「いいね!」「これが実現して欲しい!」という応援や期待の声が励みになったりしている気がします。
たまに「エンジニアじゃないからシビックテックに参加できないのでは」と言われることもありますが、エンジニアやデザイナーがやっているプロジェクトに対してファンになって応援したり、目視でのデータチェックが必要なシーンで人海戦術のときに参加したり、関連する論文やデータ、記事などについてシェアしたり、開発に直接関わる以外の盛り上げ方も沢山ある気がするので、「睡眠」が気になるな。という方はぜひポッドキャストやSlackのプロジェクトチャンネルで応援してもらえたり、メッセージを投げかけてもらえたら嬉しいです。(もちろん開発への参加もウェルカムです!)
シビックテックを伝えるのは人間じゃなかった話。
Code for Japanの武貞(たけさだ)です。この記事はアドベントカレンダーの17日目です。
2020年にSlack参加者が400から4,000名の10倍になった時も驚きましたが、2021年はさらに6,000名を超え15倍以上となり(町村1つ分くらい!)、可能性を感じると同時に、どうやったら実際のシビックテック活動まで皆さんをお繋ぎできるのか考えさせられる2年でした。
今回は、7月から11月の約半年21_21 DESIGN SIGHTで展示させていただいていたシビたんの誕生とその過程についてまとめてみます👀👀
シビックテックコミュニティの拡がり(2020年上期)
シビック(市民)がテクノロジーを活用して社会課題・地域課題に対してボトムアップ型で参加していくアプローチ方法です。Code for Japanは東日本大震災がきっかけとなって発足したコミュニティで、Code for Americaや台湾のg0v(ガブゼロ)などCode for All(海外のシビックテックコミュニティとの緩やかな繋がり)を含めて海外との交流と、日本国内各地のCode for XXやOpen XXと冠したシビックテックコミュニティとの交流を持ちながら、有志のコントリビューター(参加者・協力者・貢献者)が集まっています。
2020年コロナ以前はSlackコミュニティに400名程度が参加していましたが、東京都の新型コロナウイルス感染症対策サイトのオープンソース開発に台湾のデジタル大臣オードリータンが参加したことや、
高専生コントリビューターが書いてくれたこの貢献(コントリビュート)方法の解説記事が火付け役となり、爆発的に全国各地からの参加が増えました。
オンラインハッカソンの増設(2020年下期)
コロナの状況はなかなか良くならないし、その分「何かしたい」と集まってくれる人も増えていくという状況において、開発速度を上げたいしプロジェクトも付随してチャレンジしたいプロジェクト案もあるしということで、2018年から隔月(だいたい偶数月)開催していたソーシャルハックデーという継続開発型ハッカソン(開発デー)の頻度を上げ、毎月+全面オンラインにして開催していました。最初はアドレナリン全開だったものの、終日画面の前で話したり書いたり考えたりをすると結構体力(と目力)を使うので、段々疲労が蓄積してガス欠になっていっていました。
「シビックテックって何?どうやって参加したらいいの?問題」
如何せん、オフラインでの交流ができない問題。となるとハックデーに参加してくれる方とのコミュニケーションももちろんオンラインスタートになるのですが、参加してくれた皆さんが口を揃えていうのが「シビックテックとか、聞くようになったけど結局何なのかわからない。」「地域課題への貢献て、やりたかったし貢献したいけど、どうやったらいいかわからない。」という疑問でした。
これに答えるのもその人がそもそもシビックテックや社会課題、ITやテクノロジーをどう捉えてるかによって前提の説明が変わってしまったり、ちょっと間違えると「プログラミングはできないからお呼びじゃないのですね…」と誤解されてしまったり、説明が難しいものでした。
アニメーションをつくって、にまちなかにそっと置いてみよう
仲間が何千人レベルになったのだから、改めて「お初お目にかかります」な皆さんに伝えるためのものが必要なのではないかという話と、ルール?展への参加依頼が同じタイミングだったので、デザイナーのコントリビューター(かつ友人)の皆さんと一緒にブレインストーミングするところから始めました。
「小難しいことを難解なワードで言われても理解できない」「もっと身近で、誰でも参加できる、楽しいものだというイメージを伝えたい」などとあれこれ話す中で、「掲示だけより動きのあるアニメーションを加えて視線誘導できた方がみてもらえるんじゃないか」「人間じゃない第三者という視点で話す存在があると説明的になりすぎないかも」「ゆるキャラ最高じゃないか」という話から誕生したのがシビたんとテックんです。
デザイナーから映像制作を勉強中の知り合いやキャラクターに声を吹き込んでもらえる声優さんを紹介してもらい、バンクーバー(カナダ)2名・東京4名のみんなで話し合いをしながら進めていきました。また、バンクーバーメンバーがいたことで、英語版と日本語版の両方のスクリプトをつくって準備することもできました。
市民になることに憧れる「シビたん」
動画の中で動くシビたんは下のリンクにある通りなのですが、ちゃんとるーがキャラクターデザインをしてくれて、ストーリーをざきしゅーが天才的にわかりやすくまとめてしてくれて、展示場での掲示物とのシンクロ率をあいぼんが整えてくれて…と皆んなのスキルの掛け合わせと周りの人のサポートで生まれたのがこの子たちです。
シビたんは「まちの主人公」である市民(citizen)に憧れているシビックテックオタクなので、シビックテックのことをよく知っていて、わかりやすく私たちに教えてくれます。また宇宙から眺めているので客観的かつ分析的なのか、市民の暮らしの楽しいところも苦労や困難も理解してくれていたりします。説き伏せられるでもなく、うんちくを並べられるでもなく、いい感じに手短に話してくれるシビたんによるシビックテック紹介、そんなに長くはないので3分くらい観てみていただけると幸いです👀👀
誰でもない「シビたん」
シビたんの設定に大きく影響しているのはg0v(ガブゼロ)の「nobody」という考え方です。
Ask not why nobody is doing this. You are the "nobody"!
「誰もその課題を解決しないと嘆くならば、あなたが最初に始める「誰」になれば良いじゃないか」というニュアンスなのですが、これは同時に特定のリーダーを掲げずにAnonymous(匿名・名無し)な状態で誰もがリーダーシップとフォロワーシップを兼ね備えて推進していくシビックテックのスタンスもあらわしています。
また、マイノリティ・イシューについてメンバーの関心が高かったこともあり、「ジェンダー(男女)」「ジュニア・シニア(老若)」「日本人・外国人(国籍・ルーツ)」など固定イメージがついて無意識的バイアスがかかってしまわないように、「まち」も東京イメージに紐づかないような演出に、などと色々な隠れた拘りや意志もありました。そのため、声優さんの声もどちらの性別か固定化しないような「元気で明るい」中性的な声のイメージで探させてもらいました。
TikTokの効果で若者爆増。6万人来場。
六本木ミッドタウンという「街」のど真ん中にあるオシャレな展示場に「シビックテック」を置いたらどうなるのか、私たちも予想がつかず、会場に足を運んで担当ブースを目にするたびにドキドキソワソワしておりましたが、コロナの影響で来場制限などもありながらも、79,509名(ほぼ6万人)の皆さんにシビたんからシビックテックを紹介する機会をいただきました。企画当初は「若い人に来てほしい」「シビックテックと全然接点がなかった人にも出会いたい」と話していましたが、本当にZ世代が沢山来てくれたことが嬉しかったです。
新大久保の新店舗デザインを頼まれた時もZ世代とTikTok調べまくったけど、改めてTVでもWEB記事でもなくTikTokerの吸引力が凄いことを痛感しました。修一朗さん、その他大勢のTikTokerさんありがとうございました🙏
これからの「シビたん」
シビたんにはステッカーにもなってもらったので、これからもシビックテック伝道師としてともに考え、ともにつくっていってもらおうと思っております。皆様もお見知り置きをお願いします👀👀